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2005年 07月 03日
2003.10.20 (家づくりニュース03年2月号に投稿)
その日は肌寒い日で、いつも着ている好きなレンガ色のコートに身を包み、両手をポケットに手を突っ込んだまま渋谷の駅の階段をリズミカルに下りていた。その時、背中にリュックを背負った今風の若者が勢い良く階段を登ってきて、すれ違いざまに「シュッ」と音がした。私はハッとして立ち止まり、音のした右ポケットの方向を見てみるとコートが破れていた。きっとリュックにカギ状フックが付いていて、それに引っ掛けたんだなと思い若者を目で追ったが、もう遠くに走り去っていた。大好きなコートだったのにとウラメシク若者の消え去った方向に目を据えながら、予期せぬ事が起きるものだなとあれこれ状況を想像していて、さらにビックリさせられた。何とコートのボタンが引きちぎられ、附近の布地がそれに伴い破れてしまったのだという事に気が付いた。直径2センチもあるボタンが、すれ違い様に相手のリュックの2・3センチのフックか何かに、丁度ボタンを嵌めたかのようにして引っかかる事などあり得る事ではないが、まさにあり得ぬ事が起きた事件であった。 すると似たような事件が何日も日をおかずに続いて起きた。確認申請を出そうと朝早くから柏市まで向かう途中での話である。久しぶりに満員電車に乗った。悪い事に、その日は信号機の故障で電車が遅れていたようで寿司詰めのギューギューだった。車内では、降りたい駅に降りられない女子高生などがいて可愛そうだったが、私も日暮里で降りようと降りかけたが、持っていたカバンが乗客に引っ掛かり下りるのにてこずっていた。出口に近づこうと必死にもがいていると、何か動くたびに腰周りが引っ張られる。良く見ると私のズボンのベルトがはずれ、あろう事か前にいる男性の背広のボタン穴にベルトのフックが引っ掛っているではないか。出口に近づけば近付くほどベルトが抜き取られ、私は降りる事よりベルトを取られまいと、その男性から離れたくなかったが、今度は降りる人に押し流されてホームに出た時は、すっかり抜き取られベルトだけが車内に取り残されていた。普通ならばベルトを抜き取ると、ズボンが足元へずり落ちパンツ丸見えのマンガのような事態が想像されるが、幸いにも歳のせいか、あるいはその時履いていたズボンのせいか、ベルト無しでも何とか腰に引っ掛っていた。そうこうしていると、今度は常磐線からの乗客が乗り遅れまいとドッと流れ込み、あれよあれよと言うままに車内に押し戻され、ベルト近くに行く事ができ無事返してもらう事が出来た。その時ベルトを返してくれた男の顔が笑っていたが、その笑いの中に何故か気恥ずかしさが現れていて、私の恥ずかしさを代弁してくれているようだった。
by kobayashieiji0011
| 2005-07-03 19:18
| エッセイ
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